
自分の力でひとつの物を完成させたい

靴作りに興味(きょうみ)を持ったのは,グラフィックの勉強をしていた学生時代に,大好きだった靴屋さんが,実は靴作りの教室をしていて,『靴は自分で作れるものなんだ!』と知ってから。その後,文具メーカーに就職(しゅうしょく)をし,文房具(ぶんぼうぐ)のパッケージデザインの仕事をしながら,その靴教室に通うようになり,靴作りの楽しさと奥の深さを学びました。靴職人として独立(どくりつ)を考えるようになったのは,グラフィックの仕事をして10年がたち,先のことを考えたときに,『これからは自分が1から10までたずさわれるモノ作りをしたい』と思ったからです。そして,33歳(さい)のときに,注文靴の制作(せいさく)と靴作りの教室を始めました。
革(かわ)と対話をしながら作る

足には左右合わせて52個の骨(ほね)があります。この数は人間のすべての骨の約1/4にあたり,人の足がいかに複雑(ふくざつ)にできているかがわかります。そのため,足を包む靴は,とても複雑な立体を作ることになります。なめした革に包丁(ほうちょう)を入れ,ぬい合わせ,引いたり,寄(よ)せたりすることで,1枚(まい)の革から立体的なものを作り上げる靴作り。この一連の作業をする上で大切なことは,革と対話をしながら作ることです。たとえば,自分の気持ちが不安定なときは,革にもそれが伝わるようで,こちらが思うような形になってくれません。けれども,自分の心を落ち着かせ,革と向き合って作るときは,不思議といい形ができるもの。そんなときは,作っていてわくわくしますね。
大切にはいてくれてありがとう

長い年月のあと,修理にもどってきた注文靴
注文靴を作るときは,お客さまと細かい部分まで話し合って,その人の足に合った靴を作ることに全力をつくします。その結果,自分が作った靴によって,お客さまの生活が快適(かいてき)になり,感謝(かんしゃ)の言葉をいただいたときは,本当にうれしいもの。また,長い年月はいていくうちにこわれ,底がへってしまっても,「まだこの靴をはきたいから修理(しゅうり)をしてほしい」と,自分が作った靴が工房に帰ってくるときは,『大切にはいてくれているのだな』とうれしく思います。なかには,1つの靴を5〜6年も大切にはいてくださる人もいますよ。



